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ショートショート「開いてくれ!」 [ショートショート]

 自慢じゃないが、僕は短気である。
 子供の頃はよく喧嘩をして怒られた。中学生あたりから、その調子で喧嘩なんかしてたら大変なことになると思って血のにじむような思いで我慢をした。よく我慢できたもんだと思うが、自分でもまずいと思うくらい喧嘩っ早かった、ということでもある。
 一人暮らしをするようになったら、不器用でがさつな僕は家事でよく失敗をした。お湯の沸いた薬缶でやけどしそうになったり、調味料を取ろうとして隣の瓶を倒したりなんてことは毎日で、鬱憤晴らしにそこら辺を叩いたりするようになった。洗濯機が、蹴飛ばして歪んでもちゃんと動く、意外に丈夫なものだということも知った。
 ドアも八つ当たりに適している。枠近辺は足を痛める、ということも体で知った。

 シンクの下にある扉が開かなくなった。
 そりゃあれだけ蹴飛ばしてれば歪むだろうと思っていたのだが、歪んだら歪んだで直そうかと (直せるかどうかはともかく) 休みの日に引っ張ってみたのだが、びくともしない。隣の扉に足をかけて渾身の力で引っ張ってみたがうんともすんとも言わない。
 しばらく奮闘して、苛々してきて逆に壊しそうになってしまったので、水を飲んで深呼吸。今度は力は込めつつゆっくりと引っ張った。
「あれ?」
 僕は思わず声に出してしまった。
 依然として開かないのだが、感触が違うのだ。歪んで開かないというのではないような気がする。
 馬鹿なことを、と笑われそうな気がするが、誰かが反対に引っ張っているような感じなのだ。その証拠に、力いっぱい引っ張った後、ふいに力を抜くと、扉がわずかに引っ込むのだ。
 薄気味悪くなった僕はその扉には触らないことにした。

 あれは勘違いじゃなかった。

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ショートショート「社内の元気なご挨拶」 [ショートショート]

「おはようございます」
「あ、おはようございます」
 会社の通用口で警備員に挨拶され、僕は挨拶を返した。
 いつからだろう。それこそ名前の通り「門番」として睨んでいただけの警備員がにこやかに挨拶をするようになった。
 聞くところによると、無愛想だとかの苦情があったわけではなく、警備上の理由らしい。
 挨拶をする、というのは誰かに向けて言葉をかける、ということで、それはつまり「警備員はあなたの顔を見ましたよ」ということになるわけで、それなりの防犯効果があるらしい。
 となると、僕も疑われたのか、という話もあるのだが、毎朝、顔をあわせているし、それは考えすぎか。

 自分の部署がある部屋に入ろうとすると、上司と鉢合わせした。
「おはようございます、部長」
「おお、おはよう」
 実は、これもルールになっている。社内で人とすれ違うときには挨拶をしなければならない。就業規則とかマナーの問題ではなく、セキュリティ規則の方に書かれているのだ。
 社員は全員、写真つきの社員証を首からぶら下げていて、それがドアを開けるための鍵にもなっているのだが、社員証は盗まれる虞がある。だから我々はすれ違う人と挨拶をかわしてその顔を確認するように指導されているわけだ。

 ルールが改正された。
 実は先月、拾った社員証を使って総務部に不審者が入り込む、という事件があったのだ。何も被害はなかったが、総務部といえば会社の情報が全て集まっているところで、あやうく大変なことになるところだった。
 今度は、挨拶のときに名前を呼ぶことになった。
「お疲れ様です、佐藤部長」
「高橋君、ご苦労様」
 帰宅するときはこんな感じになる。名前を知らない相手の時には胸の社員証を見ることになっている。これは一部のお偉いさんにとっては、「俺を知らないのか」ということで不評だったらしいが、規則だからしょうがない。それに、お偉いさんのほうだって相手の下っ端の事は知らないわけだから、どの道、立ち止まって名前を確認する必要がある。その間に社員証を見られる分には我慢しよう、ということになった。
 困ったのは来客なのだが、それは「お客様」と呼ぶことで決着した。それには来客であることが一目でわかるようにしなければならないので、来客用の名札には真っ赤な縁取りがつけられた。

 総務部は大騒ぎだったらしい。
 またしても拾った社員証で不審者が侵入したのだ。今度は経理部だったが、なんと、顔がそっくりだった。社員証と顔を見比べても違いがわからない。そういうわけで危うく帳簿を見られてしまうところだった。
 総務部の出した指示は、すれ違ったときに限らず、話しかけるときには必ず名前をつけること、というものだった。
「佐藤部長、先日の報告書の件なのですが」
「ああ、高橋君。例の件の報告書だな」
 という具合だ。これはつまり、不審者にたくさんしゃべらせよう、という狙いだ。今回のことも、同期の社員に対して「そうっすね」と敬語を使ったことでバレたので、これは有効だ。不審者は社員の名前を知らないはずだから、すれ違ったときくらいならまだしも、話をするたびに名札を見たりすれば当然、怪しまれることになる。
 尤も、そのついでにトイレでも名前つきで挨拶をかわさなければならないことになったのだが、これはなかなかに奇妙な感じがするものである。

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ショートショート「網戸」 [ショートショート]

 皆さん、ご存知のように、今年の夏は暑い。
 僕はクーラーは嫌いなので持っていないのだが、さすがに耐えられない。しかしクーラーは買えない、ということでアパートの部屋の窓をすべて開けることにした。それはもう風呂からトイレからすべてだ。
 しかしそれでは虫が入ってくる。そんなわけで網戸を買ってきた。特別に目の細かい奴でどんな小さな虫も入ってこない、という触れ込みだ。値段も特別だったが、ここは奮発することにした。
 これで快適――ということになればいいのだが、さすがにそうはいかない。でも、全開の効果はあるらしく、前よりは寝やすくなった。虫も入ってこない。まぁ、悪くない感じである。

 一週間ほどすると僕は不思議なものを見つけるようになった。
 半透明の小さなゴミだ。それは本当に小さい。幅 2mm、長さは 1cm あるかどうかというところ。
 暑さを言い訳にしてしばらく掃除をしてなかったのは事実なので、掃除機を引っ張り出してきて掃除をした。
 3 日後にはもっと不思議なものを見つけた。細い棒である。いや、直径が 1mm もないのだからそれは棒と言ってはいけないのかもしれない。測ろうとする定規の目盛りの線くらいしかないのだ。
 さらにその 2 日後にはもうちょっと太い棒を見つけた。僕はそれを拾い上げてしばらく見入ってしまった。
 なんだか見覚えがあるのだ。緑だか灰色だかはっきりしない妙にやわらかい棒と、その先端にくっついている小さな丸が二つ。
 何だろう。
 でも思いつかない。僕はそれをゴミ箱に入れると寝てしまった。

 夜中に僕は目を覚ました。
 トイレに行きたいとかいうのではない。わかったのだ。
 あれは、蚊の胴体だ。胴体と目だ。
 なんでそんなものがあるのだ。網戸は完璧なはずだ。いや、あるいは僕が出入りするときに玄関から飛び込んだのかもしれない。
 しかし、なんだって胴体だけなのだ。
 いや。
 僕はさらに思い出した。

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ショートショート「クリアー・テレビ」 [ショートショート]

 テレビが故障した。なくてもいいものではないで、やむを得ず買いに行った。
 店には大きなテレビばかりが並んでいた。そんな予算はないので、型遅れを投げ売りしていないかと思って、端から端を二往復したのだがなかった。
 そんな僕に気づいたのだろう、店員が寄ってきた。
「お客様、コンパクトなテレビをお探しですか?」
「そうなんだけど、ないんだよね」
「では、新開発のこちらなどいかがでしょう」
 店員は僕を更に端っこに連れて行った。ちょうど角のところに、本当に「コンパクト」なテレビがあった。今時、パソコンのディスプレイだってこれより大きいぞ、というサイズだった。
「それは特別な技術の機能が組み込まれているからです。普通の大きさにするととんでもなく高価になってしまうんですよ」
「特別な技術の機能?」
「はい」
「どんなの?」
「お試しになりますか?」
「試すって…」
「一晩 1,050 円でレンタルいたしております。もしお気に入りでしたら、差額でお買い求めください」
「お気に召さなかった場合は?」
「そのままお返しください。申し訳ありませんが、レンタル代金はご返却できません」
「ふうん…」
 僕は、そのテレビと、控えめな中に自信たっぷりの店員の顔を見比べた。

 結局、1,050 円を払って僕はそのテレビを持って帰った。もし気に入らなかったらその 1,050 円は捨てることになるが、店員の自信の根拠に興味があった。
 アンテナをつないでスイッチを入れる。映るのがものすごく早い、というわけではなかった。
 リモコンは、普通のリモコンだった。僕はそれをあちこち押して、色んなチャンネルを確認した。色がものすごくきれいとか、サイズの割に音がいい、ということもない。
「クリア…?」
 よく見るとリモコンの真ん中のボタンは、「クリア」というボタンだった。なんだろう。時計あわせとかの設定画面を消すためのボタンかと思ったが、それにしては堂々としている。
 押してみた。
「なんだこれ?」
 画面に青い円が現れた。どうやら勝手に動く。いや、僕の手に合わせて動いている。それも違う。リモコンだった。リモコンを動かすと、まるでライフルの照準器のように動くのだ。なんだかわからないまま、僕は画面のあちこちを動かしてみた。
 円は時々赤くなった。どうやら、映っている人間の中央に来たときにそうなるらしい。こうなると本当に照準だ。
「へぇぇ…」
 好奇心にかられた僕は、大声で騒いでいるつまらない芸人に照準を合わせて、「クリア」を押してみた。

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